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仙台高等裁判所 昭和62年(ラ)96号 決定 1988年3月31日

抗告人

株式会社グレージャーエンタープライズ

上記代表者代表取締役

熊谷重明

上記代理人弁護士

水上進

相手方

浅野綾一

相手方

浅野隆子

主文

原決定のうち、抗告人に対する売却を不許可とする部分を取り消す。

原決定のうち、抗告人に対する売却許可決定を取り消す部分の取り消しを求める部分の申立てを却下する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

二本件記録及び当審における抗告人代表者本人、相手方綾一、後藤正克の審尋の結果によれば、本件執行抗告に至るまでの経緯は次のとおりであるものと認められる。

1  相手方浅野隆子及び相手方浅野綾一は、昭和五三年一二月二〇日、株式会社山形毛利金融(以下「毛利金融」という。)との間において、相手方隆子所有の別紙物件目録1、2の土地(以下「本件土地」という。)及び相手方綾一所有の別紙物件目録3の建物(以下「本件建物」という。)につき、極度額七〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借等、債務者相手方綾一とする根抵当権設定契約(共同根抵当)を締結し、昭和五三年一二月二一日、その旨の登記を経由した。

2  毛利金融は、相手方綾一に対し、昭和五四年三月九日、六〇〇万円、同月三〇日、一〇万円、同年四月一三日、一〇万円以上合計六二〇万円を貸与した。

3  山形県東南村山地方事務所は、昭和五五年一月一一日、相手方綾一に対し、滞納処分(債権者山形県)により本件建物につき差し押さえをし、同月一二日、その旨の登記を経由した。そして、同月一二日頃、毛利金融に対し、滞納処分による差押の通告をした。

4  毛利金融は、昭和五五年一月二〇日、相手方綾一との間において、上記貸金元本合計六二〇万円と内六〇〇万円に対する未払いの利息、遅延損害金一六七万一六八〇円、内一〇万円に対する未払いの利息、遅延損害金二万九五〇〇円、内一〇万円に対する未払いの利息、遅延損害金二万四二二〇円及び同日現金貸付分七万四六〇〇円の合計八〇〇万円を目的として、利息を日歩九銭、弁済期を昭和五五年四月二〇日とする約定で準消費貸借契約を締結した。そして、毛利金融及び相手方らは、昭和五五年二月五日、本件根抵当権の極度額を一〇〇〇万円に変更し、同月一九日、その旨の登記を経由した。

5  毛利金融は、昭和五五年一〇月一日、相手方綾一との間において、上記の貸金債権元本八〇〇万円とこれに対する未払いの利息、遅延損害金一八二万八八〇〇円及び同日現金貸付分一七万一二〇〇円の合計一〇〇〇万円を目的として、利息を日歩八銭五厘、遅延損害金を日歩一三銭五厘、弁済期を昭和五五年一二月三〇日とする約定で準消費貸借契約を締結した。そして、毛利金融及び相手方らは、昭和五五年一〇月八日、本件根抵当権の極度額を一一〇〇万円に変更し、同月九日、その旨の登記を経由した。

6  毛利金融は、昭和五六年一月一九日、山形地方裁判所に対して、相手方綾一に対する、昭和五五年一〇月一日貸金債権の元金一〇〇〇万円及びこれに対する利息、遅延損害金(以下「本件請求債権」という。)があるとして、本件土地、建物に対する競売の申し立てをした(同裁判所昭和五六年(ケ)第五号)。

7  山形地方裁判所は、昭和五六年一月一九日、本件土地、建物につき、競売開始決定及び差し押さえをし、同月二一日、差押の登記を経由した。

8  毛利金融は、昭和六二年四月一日、抗告人に対し、前記5の債権及び本件根抵当権を譲渡し、同月八日、その旨の登記を経由し、同月九日、相手方らに上記の譲渡の通知をした。

9  山形県東南村山地方事務所は、昭和六二年九月二二日、本件建物に対する前記3の差押の解除をし、同日、その旨の登記を経由した。

10  山形地方裁判所は、昭和六二年一一月二日、抗告人に対して、本件土地、建物につき、売却許可決定(以下「本件売却許可決定」という。)をした。

11  そこで、相手方らは、昭和六二年一一月七日、山形地方裁判所に対し、執行抗告をした(同裁判所昭和六二年(ソラ)第四号)(以下「当初の相手方らの執行抗告」という。)。その執行抗告の理由のうち、本件請求債権は、本件根抵当権の被担保債権に含まれない旨の主張を要約すると次のとおりである。

山形県東南村山地方事務所は、昭和五五年一一月一二日頃、毛利金融に対し、前記3の滞納処分による差押の通知をしたので、毛利金融が差押の事実を知った日である同月一二日から二週間が経過した同年一月二六日頃、本件根抵当権の元本が確定した(民法三九八条ノ二〇第一項四号)。

したがって、本件請求債権は、本件根抵当権の元本が確定した後に貸付けられたものであるから、本件根抵当権の被担保債権には含まれない。そして、抗告人は、昭和六二年四月一日、前記3の差押により本件根抵当権の元本が確定したものとして本件根抵当権を取得したものであるから、前記9の経緯により、差押の効力が消滅したとしても、本件請求債権は、本件根抵当権の元本が確定した後に貸付けられのであることに変わりはない。

12  そこで、原執行裁判所は、昭和六二年一一月二四日、上記執行抗告に基づき、再度の考案による更正をし、上記執行抗告の理由があるとして、本件売却許可決定を取り消したうえ、抗告人に対する売却を許可しない旨の決定をした。

三そこで、以下、本件執行抗告の適否について、検討する。

1 前記二の事実関係によれば、山形県東南村山地方事務所は、昭和五五年一月一一日、相手方綾一に対し、滞納処分(債権者山形県)により本件建物につき差押さえをし、同月一二日、その旨の登記を経由し、同月一二日頃、毛利金融に対し滞納処分による差押の通知をしたので、民法三九八条ノ二〇第一項四号、三九八条ノ一七第二項により、毛利金融が差押の事実を知った日である同月一二日から二週間が経過した同年一月二六日頃、本件根抵当権の元本が一旦確定した。しかし、山形県東南村山地方事務所は、昭和六二年九月二二日、本件建物に対する差押の解除をし、同日、その旨の登記を経由したのであるから、民法三九八条ノ二〇第二項本文により、本件根抵当権の元本は確定せざりしものとみなされる。そして、本件請求債権は、前記二、2、4、5のとおり順次締結された準消費貸借契約に基づくものであって、本件根抵当権によって担保されるものであることは明らかである(ただし、利息制限法所定の制限利率を利息、遅延損害金を目的とする部分の準消費貸借契約は無効であり、本件請求債権中には、その無効部分が含まれているものと認められるが、その無効部分については、配当手続の段階、例えば、民事執行法八九条に基づく配当異議などにおいて処理されるべきである。)。そして、当審における抗告人代表者本人、後藤正克の審尋の結果によれば、抗告人は、毛利金融から、前記滞納処分による差押によって元本が確定したものとして本件根抵当権及び本件請求債権を取得したものではないものと認められるから、本件において民法三九八条ノ二〇第二項但書は適用されない。

そうすると、本件請求債権は、本件根抵当権の元本が確定した後に貸付けられたものであって、本件抵当権の被担保債権には含まれないとする相手方らの当初の執行抗告を理由があるとした原決定は誤りであるといわなければならない。

2  以上によれば、本件申立て中、原決定のうち、抗告人に対する売却を不許可とする部分の取り消しを求める部分は正当として認容すべきである。

しかし、相手方らの当初執行抗告に基づいて、再度の考案による更正としてなされた原決定の告知により、本件売却許可決定は当然失効し爾後の取消によりその効力を復活させるべきものではない(当初の相手方の執行抗告も目的達成により対象を失い、その執行抗告事件は終了したものである。)と解すべきであるから、本件申立て中、原決定のうち、抗告人に対する売却許可決定を取り消す部分の取り消しを求める部分は、申立ての利益がなく、不適法として却下すべきである。

なお、抗告人は、抗告人に対する売却を許可する旨の決定を求めているが、当審において、直ちにこれを決するのは必ずしも相当でないと認められるから原執行裁判所は、他に売却不許可事由があるか否かを審理したうえで(なお、当初の相手方からの執行抗告においては、最低売却価格に関する不服も主張されている。)、改めて抗告人に対する売却の許否を決すべきである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

別紙 抗告の趣旨

原決定(昭和六二年一一月二日付売却許可決定を取り消す。株式会社グレージャーエンタープライズに対する売却を許可しない。)を取り消し、株式会社グレージャーエンタープライズに対する売却を許可する裁判を求める。

抗告の理由

1、原審の売却許可決定の取消並びに売却不許可決定の理由は、本件競売申立債権は差押えにより根抵当権の元本が確定した後の貸付によるものであるから本件根抵当権の被担保債権には含まれないという債務者等の一方的主張を全面的に認容したものであるが、これは重大な事実の誤認である。

即ち、本件競売申立債権は、原担保債権者株式会社山形毛利金融の債務者浅野綾一に対する次の金銭貸付取引により発生したものである。

①昭和五三年一二月二〇日 本件根抵当権設定契約

②昭和五三年一二月二一日 貸付

一、五〇〇、〇〇〇円

昭和五四年 一月 六日 貸付

二〇〇、〇〇〇円

昭和五四年 一月三一日 貸付

三五〇、〇〇〇円

昭和五四年 二月二七日 貸付

四五〇、〇〇〇円

合計二、五〇〇、〇〇〇円

(これは下記昭和五四年三月九日貸付金により返済した。)

昭和五四年 三月 九日 貸付

六、〇〇〇、〇〇〇円

昭和五四年 三月三〇日 貸付

一〇〇、〇〇〇円

昭和五四年 四月一三日 貸付

一〇〇、〇〇〇円

合計六、二〇〇、〇〇〇円

③昭和五五年 一月二〇日

上記元本合計金 六、二〇〇、〇〇〇円

内六〇〇万円に対する

利息、延滞損害金

一、六七一、六八〇円

内一〇万円に対する

利息、延滞損害金

二九、五〇〇円

内一〇万円に対する

利息、延滞損害金

二四、二二〇円

同日現金貸付分七四、六〇〇円

合計 八、〇〇〇、〇〇〇円

これを元本金八〇〇万円返済期日昭和五五年四月二〇日とする借用証書にまとめ、債務者は昭和五五年二月五日本件根抵当権の極度額を一、〇〇〇万円に変更した。

④昭和五五年一〇月一日

債務者は、上記③の八〇〇万円及びこれに対する利息金の支払いをすることが出来なかったので債権者は支払期日の延期を認めて

元本金 八、〇〇〇、〇〇〇円

利息、損害金一、八二八、八〇〇円

同日現金貸付分 一七一、二〇〇円

合計 一〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払期日を昭和五五年一二月二〇日と約定したものである(金円借用証参照)。

なお、債務者は、昭和五五年一〇月八日本件根抵当権の極度額を一、一〇〇万円に変更した。

⑤従って、本件競売申立債権の内容は原債権者株式会社山形毛利金融が債務者に対し、昭和五四年三月九日から同年四月一三日までの間に貸付した金六二〇万円とこれに対する利息、損害金の合計額がその実態なのであり、且つその貸付は本件根抵当権物件に差押えがなされる以前のものであるから、同債権は本件根抵当権により担保されることは明白である。

(本物件の登記簿謄本並びに原債権者会社の貸付元帳参照)

2、仮に差押えによる根抵当権の元本確定により前項④の債権一、〇〇〇万円の全額が担保されない場合であっても、同確定以前の昭和五五年一月二〇日現在前項③の債権八〇〇万円が存在したのであり、これが上記④の債権に含まれているのであるから、少なくとも同八〇〇万円の債権は本件抵当権によって担保されるものである。

原審が同根抵当権の被担保債権はないものと判断し、先になした売却許可決定を取り消し、売却の不却可を決定したことは違法である。

3、競売債権者兼競買申出人である抗告人は、昭和五六年競売申立をなして以来六年余りにも至も競売が完結せず、やむなく自ら競買を申し出たのであるが、原審の本件決定により、担保債権の弁済を得られないことになり、また競落による物件の所有権移転も確保できないことになるから、すみやかに違法な原決定の取消を求めるものである。

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